假名遣について  五、歴史的假名遣は困難か

 はなぢ(鼻血)、じめん(地面)

  いなずま(稲妻)、たづな(手綱)、つづく(續く)、一人ずつ

  おおきい(大きい)、こくおう(國王)、なこうど(仲人)、こおり(氷)

  むずかしい、むつかしい(難しい)
 現代假名遣における、かかる不可解な書分けは如何なる原則によるものであるか、説明し得る者はあるまい。これらは、正假名遣にすれば、次のとほりとなる。
  はなぢ(鼻血)、ぢめん(地面)

  いなづま(稲妻)、たづな(手綱)、つづく(續く)、一人づつ

  おほきい(大きい)、こくわう(國王)、なかうど(仲人)、こほり(氷)

  むづかしい、むつかしい(難しい)
 「はなぢ」、「ぢめん」は説明の必要もないだらう。第二行の「たづな」は「た(手)+つな(綱)」である。第三行の「なかうど」は「なか(仲)+うど(人)」である。最後の「むづかしい」のづは「むつかしい」といふ表記が共存してゐることから判るとほり、「むつかしい」が濁つたものである。

 正假名遣は、現在一般に通用してゐる表記法と異なるために、一見難しさうに見えるかもしれないが、原則が明快で、その表記法が合理的であるために記憶しやすく、また忘れたとしても類推により正しい表記に辿りつくことが可能である場合も少なくない。

 大東亞戰争の敗戰までは、普通に用ゐられてゐた假名遣なのであるから、一般の使用に差支へるほど複雜で困難であるといふ主張は良く言つて誤り、惡く言へば詐欺、欺瞞の類である。