假名遣について  三、假名遣とは何か

 假名遣とは、語を假名で書表すときの決りであり、その綴方は假名成立當時の表記の原則に從ふものである。
 正假名遣は發音ではなく語に從ふといふ原則を持つため、語音の變化にかかわらず不變である。言葉の發音は時代の變遷とともに變化し、また同時代であつても、地域によつて異なることがあるものだが、正假名遣はその原則ゆゑに、言葉のゆれを吸収しうる融通性がある。正假名遣は、時間と空間とを超えた普遍性を持つ。そもそも假名と發音とが一對一で對應しなければならない必然性は存在しないのである。假名遣はもとより、言語一般に言へることであるが、その本來目的とするところのものは、意味の傳達が第一であつて、音聲の再現は二の次、三の次である。そして、正假名遣における假名と音聲との乖離は、実用性を損ふほど大きいものではない。英語などに較べれば、遙かに規則的であり、また容易でもある。

 假名遣を表音的ならしめようといふ考へは無意味であり、不可能なのである。現代假名遣すら、表音主義を標榜しながら、正假名遣の原則を援用して、充分に表音的になぞなつてゐない。